石を置く

彼の花が狂つてしまつた朝に
その石を置いたので、
日蔭で笑つたかほに、
日なたにかほをしかめる様子に、
たゞ五歩ばかりの距離を置いて
見つめてゐた。

石が表情をかへるたびに、
私はペエジをめくつては、
そこに書いてある詩を音讀して遣り
かつての花の、そして今のその姿を
受入れられぬことを
少しかなしくなつて泣くのだつた。

薄明(2020.2.20)

ちよつとした心の動きは寫眞で

ちよつとした心の動きを感じたら、シャツタァを切つてよい。さういふ、小さな心の感應を、寫眞といふ繪で殘してをく。

大きな心の動きは、その糸目を、紙といふ繊維に縫い付けるやうに、言葉にして殘してをく。丁寧に、時として、叩きつけるやうに。

寫眞でもよいのですけれど、私にはその一枚繪でナミのおほきさを表現するのは難しいですし、言葉の儘ならぬもどかしさは却つて自分らしいなと自己愛に溺れることもできるのですから。小さな動きもまた、うまく云ひ表せなくて、むず痒い思ひをしてをりますけれど。

わたくしは、じぶんじしんと、じぶんがうみだしたものを好いてくれるひとをだいじにして參りませうね、すぐにじぶんをきらいになるひと。

葬送

Nikon FM2, Lomography 100 Color Negative

 

時間の葬送ごとに花添へて少女は奔り去ってった

まゝごとにゐた時間はその惜別に閉じられて、

わたくしの足元に色を少しづつ落として去ぬ

口紅

EOS Kiss, EF50mm F1.8 STM, Fujifilm C200

 

あのあかい口紅の子らが風に揺れて笑ふの、

わたしは唇隠すよにして通り過ぎた日

 

Nikon FM2 + Ai Micro-Nikkor 55mm F2.8S + FUJIFILM 業務用100, 2019-Feb

夜の想ひがれ果て、
雨を待つ虚ろひにわたくしは、
何処を見てゐるのか知りたいだけ

石畳

雪ちらして石だゝみの鏡割れ、
あかる街燈にそむらんで、
ゆく君の薄きれたる裾尾の。

ゆふべの襟にかぐわしき、
点点と縫ひ跡たどるのみ。
ゆふべの燈りが殘るまど。