「ね……マッチすったことある?」

人きりで公園に出かけた。
砂場に浅く、指でなぞるように丁寧に、滑らかなすり鉢状の丸い穴を掘る。
穴を囲むように、湿った土で壁を盛り上げていく。
穴の中に、そこら中から集めた枯れ枝や葉を集めて敷き詰めた。
箱から、マッチを一本取り出し
側面にへばりついた薬にマッチの頭を、おそるおそる擦り付けてみた。
火は点かずに白く擦れた痕だけ残った。
痕跡を払い落とそうと、指先で拭い、もう一度擦り合せてみた。
シュッと音がして、一瞬だけ大きく広がった後に、小さな頭にお行儀良く火が点った。
硫黄と木とが混ざった独特の匂いが鼻腔を掠めた。
枯れ枝にマッチの先を押し付ける。
枝にはなかなか移らず、じりじりと火がマッチの軸を伝わって指先に取り憑こうと登って来た。
それ以上持っていることが出来ずに、落としてしまった。
マッチの火は急に勢いを失って細く煙を上げて消失しそうになったが
触れていた紙切れに何とか燃え移り、パチパチと囁きながら枯れ葉へ、小枝へ
徐々に広がっていった。