客の男はゴクッと唾を飲み込み
「魂(タマ)じゃなくて竿ってのは…変わってるねえ」
「その辺りが男幽霊ゆえんだとか」
「そういうもんなのかい?」
「さあ…」
「…」
「その幽霊に出会っちまったら、助かる方法が一つだけあるそうなんですよ」
「なんだ、勿体ぶらずに教えてくれよ、な。」
「とにかく一目散にその場から走り去る、と」
「ふーん…なんでまた走れば助かるのかねえ」
「取られるのがマラ、だけに マラ、損…『マラソン』…」
「…」
「お後がよろしいようで」
「よろしくないっての」
「どうもすいませ〜ん」
「…山田くん、座ぶとん二枚持っていきなさい」
「…とにかくあっしは用達しして来ますからね」
「やだねえ…そう言われちゃうとあたし独りってのは恐いね…いいからそこの川でしてしまいなさいよ」
「いえいえ。お客さんが飲み食いしている前で用達しするなんざとんでもない。
それじゃ、くれぐれも気を付けてくださいよ…では」
店主はそう言うと、物凄い早さでびゅうと突っ走って行ってしまった。