風の枯れによの

風吹いて

風が吹いてをり、しばらく音を奪ふ。
視線にへばりついた翅蟲の綱を慌ただしく揺らし、コマ送りのやうに消えていく。風がやつてくる。風は老いを運び、私は枯れてゆく。私の喉が掠れた音をたてようとしたが、夜闇のばかりに何も遺しては呉れなかつた。枯れてかうべのうづくまる。

Fallin’

トーン

確かなものを、かたちを求めては。しかしそれで凝りかたまつてしまふのを怖れてゐる。何度も自分の在り方を考へ直して足元を見る。

這い依る

すがる樹木

すがるよに這いずるよに、その手を伸ばして艶めくも水は撥ね。

私を棄てることは出来ない。置き去りには出来ない。横たえたる肌にしずくぴちゃり。

蝸牛の存在

蝸牛

蝸牛がゐた。金沢城脇の、樹々に包まれた一本道は涼しく湿り、緑に染まってゐる。蚊が少し気になるが、湿度は心地よい。蝸牛の存在はこの森の原始に錯覚する。渦から草花は生え、樹々は伸び育ち誰もが指を据ゑ。ぐるりと目が回って、中へ。

ちろちろと昔

彼岸花

獨りちろちろと、夜半に咲いてゐた。彼岸花の火が散らすよう。その中にいま、動きを見るか、ただただ静的な過去を見るか。私は現在に居るのか、過去に居るのかわからないまゝ、舊友の顔をみる。その顔はちろちろと揺れてゐた。