かの火花

あの実

色づいたあの実、初めて見たのが彼の日。火花みたいだと思つた。花火のやうだとも思つた。誰も砂利を鳴らさない、誰も影を踏まない、静かな石垣の沈んでゆく秋に立つ。夏を見送つたことがそっと耳元に立ち止まり、消えた。花火みたいだと思つた。

かの火花

風の枯れによの

風吹いて

風が吹いてをり、しばらく音を奪ふ。
視線にへばりついた翅蟲の綱を慌ただしく揺らし、コマ送りのやうに消えていく。風がやつてくる。風は老いを運び、私は枯れてゆく。私の喉が掠れた音をたてようとしたが、夜闇のばかりに何も遺しては呉れなかつた。枯れてかうべのうづくまる。

風の枯れによの

蝸牛の存在

蝸牛

蝸牛がゐた。金沢城脇の、樹々に包まれた一本道は涼しく湿り、緑に染まってゐる。蚊が少し気になるが、湿度は心地よい。蝸牛の存在はこの森の原始に錯覚する。渦から草花は生え、樹々は伸び育ち誰もが指を据ゑ。ぐるりと目が回って、中へ。

蝸牛の存在